最近、新宿に出かける用を得た。そのため、大江戸線ではじめて「新宿」という駅で降りた。それまでは「新宿西口」だったり「東新宿」だったり、映画館とか人と会う目的を結ぶ「点」でしかなかったが、このたび駅自体が目的の「線」になってくれたのである。
タカシマヤタイムズスクエア内のホームセンター東急ハンズに行くためである。地元の上野にホームセンターはない。「下町の人情」に騙されてながれてきたが、台東区なんかクズ区だ。
しかし……
齢(よわい)60を過ぎて、ますます慎重になる。そしてこのところの臆病風に吹かれ、翌朝の寝床でおぞけをふるった。〈なんでだ!?〉と頭(かぶり)を振って思い出したのが、まえの日久しぶりに新宿に出かけたことだった。
室内で乗ってる手押しの車イスのブレーキ部分の部品取り付けに——取ったり付けたりの必要はないが、長く使ってるとガタがきて締める必要を生じ、そのための取り付けにレンチスパナが要るからだ。以前使ってたのが新車に合わなくなった。
レンチスパナを求めてホームセンターに行く必要を生じ、台東区の自宅からいちばん近いホームセンターが新宿高島屋の東急ハンズだった、というわけだ。何度もいうが上野、浅草にホームセンターはない。
ひさしぶりの新宿はなんの感興も湧かなかった。高島屋を出たところが、空中廊下のような陸橋だった。出た時は夜になり、しかも寒い日で、案内のハンズのおネエさんは先に走って、「スロープの完備が十分か」わざわざ階段を上がり下がりして尋ねてくれたりして感激したが、おぞけをふるう元となったのはそのすぐあとだ。
空中廊下の途中が左右両方向に分かれている? いや、分かれていると思ったのは錯覚で、右に行けばたしかに空中廊下のまた廊下だが、左は真っ逆さまの階段だった。離れて見はるかせば若い女の人らが、なんの不自由もなく上がったり降りたり。ちょっと走ったらすぐの近くに。
クワバラクワバラ! あわてて離れた。
あとは見ずに目のまえまっすぐ、JRのビルだけめざして直行。建物のなかの広いフロアに到達、エレベーターをまえにした時にはつくづく安堵の溜息を吐いたものだった。
まあ、あそこから落ちるおっちょこちょいなど俺くらいだろう。
だとしてもだ、総重量70キロの電動車イス、痩せてる俺の体重がそこそこ30キロだとしても合わせて100キロ。100キロの鉄の塊が転がってく階段。そこにはあとから上ってくる健常者が何人も連なっているのだ。不測の場合の対応ができてないなら、電動車イスだけでもシャットアウトすべきだ、というのは果たして俺だけの横暴、極論だろうか。
追記:すぐ上の画像は「公園のバリアー」と入力して出てきた画像です。
なぜ、これを急遽追加したか、その意味は分かりますね。「バリアフリー」などといわれることのない昔、こういうものがいたるところで電動車イスを阻んでいたのですよ、ほんのわずかの鉄の柵が!