いやー、面白かった。ま、痛快無比というほどではないものの、ひところ問題になった教科書検定の舞台裏、といった内容でどろどろした人間関係、とりわけ男と女の愛憎渦巻く赤裸を描いて余りある。
正に真骨頂。ほとんどダレるところなし。
しかし今回ほど、主人公に感情移入できなかった作品はないのではないか。それどころか叩き殺してやりたかった、そういうとモテない男のひがみに取られるが、女もバカだ。どうしてそこまでバカになれるのかと思う。「あんな男」と思いつつ地獄まで落ちる。見ていて哀れというより張り倒したくなる。
俺は最後は、何度も目次を確認しながら読んでた。最後が「落下」とあるから、これは主人公の「破滅=落下」が待っているに違いない。それに溜飲を下げる楽しみに読んでいたというのが正直なところだ(笑)。
文庫本上下巻。主人公の男はもっとムゴイ最期に逢わせたかった。あんな奴でもこの先末永く生きていくんだろうな、そう思うと別の意味の空しさに囚われる。「事件は闇のなかに」という意味でない空しさ。男と女の痴話の果てだからバカバカしいだけだ。
ただし、ラスト数行は鳥肌モノだ! めずらしく(笑)救いがある。
それにしても、お体裁のいい学者世界なんてのも、一皮剥いたら醜いものだ。あんなもんだろうと思っていたから、まあ、溜飲ものといえるか。
阿刀田高の批判精神旺盛な解説も良!
下画像は「出たがり屋・清張さん」の面目躍如たる『風の視線』(1963年、川頭義郎監督)の一場面。別の場面は憶えてんだが……それくらい、この映画には清張さん何度も出てる。しかもけっこうなセリフで、ちゃんと芝居してるんだから立派! 役者です(笑)。