1983年8月6日公開。48本つくられた同シリーズの第31作目ということでは、「最も油の乗り切ったところの作品」といえばいえるのではないだろうか。マドンナは都はるみ、役柄は当代売れっ子歌手・京はるみで、ほとんど地のままに演じ、それがそのまま地の人柄ではないかと思われ好感が持てた。ちなみに役名・京はるみは、実際のデビュー時、芸名として名乗るはずだったが、先に同名の歌手がいたことでいまの都はるみとなったといういわく付きだ。本人は映画で役を演じつつ、さぞや感慨深かったに違いない。
都はるみが好きか嫌いかで、本作評価は分かれるだろう。たいていは「寅さん」「歌手がマドンナ」とくれば、浅丘ルリ子を思い浮かべるだろうが、俺の「へそ曲がり」は都はるみに軍配を上げたが、それだけでなく古里佐渡島が舞台ということも上げた理由だ。
ちょい役で北林谷栄が出てたことも印象に深かった。
そして、本作はちょっと変わってる。寅さんの夢ではじまるオープニングはいつもどおりだが、一波乱あって「ぷい」と出ていくパターンが違ってる。旅先の佐渡島で、傷心の京はるみと出逢った寅さん、相手が有名人と知りつつも、はるみの心情に寄り添いつつ知らないふりを決め込み、いつものバカをやっておちゃらけるのも、はるみの恋の痛手を思いやっての癒し効果だ。とにかく今回の寅さんはやさしい。やさしすぎる。
あんなにされたら、どんな大スターだって「ころっ」と寅さんにいかれちゃうだろう。
じつは、有名なスターと無名な庶民の交わりというテーマは、俺の長年の夢でもあった。実際、そういうパターンで小説を書いたこともあったのだ。
そんな大スターと知り合う前半から、中盤までを見てきて、最後、後半で京はるみが葛飾・柴又の「とらや」に訪ねてくるという大団円、そらもう、タコ社長の会社から近所中まで大騒ぎとなる。おまけに、カラオケを利用してのにわかワンマン・ショー、それが下町の軒先だから盛り上がらないわけがない。NHKホールでのファイナル・ステージとだぶって涙腺ゆるみまくり!
いやー、良かった。ほんとに好きな「寅さん」の一篇だった。
ちなみに、本作で歌う都はるみの持ち歌は2曲、まず団子屋「とらや」にちなんだ「餡こ」からという(都はるみが実際セリフでいってる)(笑)『アンコ椿は恋の花』と、そしてこれは俺も大好きな『おんなの海峡』! たっぷり聴かせてくれます。必見作です。