ネットに氾濫するSMカテゴリーに「電気責め」というジャンルがあるのをご存じだろうか。ノーマル派は知るまい。しかし、電気というと、あの「ビリビリ」だが、そんなアブナイもので快感を得られるなんて、ふつうだったら考えられない。
「それが変態の変態たる所以だろう」というノーマル派のしたり顔が見えるようだ。
まあ、いわせておけ(笑)。
俺が電気に興味をもったのはいつごろのことだろう。
そもそもSMに興味をもったのはいつか。小学校の時にはペニスをいじって感じたようなと思い、いや、それは単に性の目覚めに過ぎないなどと記憶に修正をくわえれば、いったいいつかこんがらかる。あちらの世界に、それも女性で同好の志がいたことにおどろき、喜んだのも束の間、直流電圧でない交流低周波という流派違いだった。ことほどそれくらいSMは奥が深いということか。
まじめな話をしよう。といって、ここまでも趣味の話としてはまじめなわけで、すこしもふざけははいっていない。まじめというのは趣味を離れて硬派という意味だ。
だが、果たして「電気責め」など、どこからきたのだろう。
もともとSMといっても、鞭打ちや熱ロウを垂らす責めなど、基本は拷問、つまりは刑罰からきている。本来は血を見たり、火傷をしたりとむごたらしいものだ。しかし、プレイも過激になると焼きゴテを実際当てるくらいだから、紙一重といっていい。
電気責めももとはれっきとした拷問で、しかも、これは鞭打ちや縛りといった古典とは違い、現代頻繁におこなわれている拷問だ。どこでか。もちろんナチスの時代にもあったが、主には戦後、中南米を主とした国々の軍事政権下でが一般的だ。
そこで1本、作品を紹介しよう。
1978年のイギリス映画、マーチン・バーグ監督の『パワープレイ』だ。一つ目のリンクは劇場予告篇だ。
●トレーラーリンク●●ユーチューブ
『パワープレイ』予告篇
お分かりだろうか。使われる言語は英語である。イギリス映画だから英語なのはあたりまえといえばあたりまえだ(笑)。しかし、これを封切当時に劇場で見た時は、〈なんか違う〉という感じが否めなかった。
クーデター映画というのは、コスタ・ガブラス監督『Z』でも『戒厳令』でも、なぜかフランス映画が多く、したがって出てくる会話はフランス語だ。だよね(笑)。それともイタリア語か?
●ピックアップリンク●●
ユーチューブ『戒厳令 Etat de siege』一部
本作はイタリアとの合作だったが、2分30〜40秒目ごろからは凄い場面だ。
描かれているのはスクール・ジ・オブ・アメリカズ。米軍が居座った国においた特務機関による、その国の反体制派に対する弾圧教授学校で、指摘の「凄い場面」は当地の若い軍人を一堂に集め、捕虜を使って拷問実習しているところだ。民放TBSの月曜ロードショーで放映された時はもちろん、劇場で見た時もモザイクで何が何やら分からなかったが、これで見るとオチンチンに当てているのがはっきり分かる。
映画はブラジルが舞台だったが、アメリカは中南米の反共国家で、民衆の弾圧方法をこうして伝授し、それを学んで巣立った軍人や秘密警察の人間が、おなじ国の同胞、正義と自由を重んじる、いわば真の愛国者たちをアメリカのいいなりに弾圧し、虐殺したのだ。
ということで、中南米といえば母国語はスペイン語で、だから英語でもフランス語でもイタリア語でも違和感があり、軍事政権の非道を白日のもとに暴く映画なら、そこで使われる言語はスペイン語でなければぴんとこないわけだ。
そう思っていた時、『パワープレイ』のスペイン語バージョンを見つけて狂喜した。
坊主頭のおっちゃんがいるだろ。秘密警察長官役ロナルド・プレザンス、あんないい声じゃなかったよ。知ってる人なら分かるよね。
●全部見せますリンク●●ユーチューブ
『パワープレイ Asalto Al Poder (1978) - Golpe de Estado - Power Play』1:34:47(スペイン語バージョン)
20分目くらいにドンナ嬢(アルバータ・ワトソン)の電気拷問シーン(すぐ上)があります。ここで、これがチープな吹き替えであることがはっきり分かる。
なぜなら、元のワトソン嬢の悲鳴をより分けて聞いてみ。俺は映画館で恐ろしくなったほどなのだ。とても「SM萌えーっ!」なんて興奮できる要素なかった! だから電気責めなんてのはチープもチープ、ホンモノの拷問と比べたらままごとみたいなもんです(汗)。