きょうのウェブ東京新聞コラム『筆洗』は、江戸風物詩のひとつ、昭和が遠くなったいまでも懐かしいひびきのある行商、「物売り」の声だ。冷蔵庫のない昔は、泉で汲んだ冷水のはいった桶を天秤棒の先にかついで、「ひゃっこい、ひゃっこい」といって歩いたそうだ。そうくると「ひゃっこい」方言までが懐かしい。江戸でもそれが使われてたとは……!
しかし、[時間がたつと、ぬるま湯になった(北嶋廣敏著『図説大江戸おもしろ商売』)](笑)
[秋の虫たちも、にぎやかな合唱の準備を始め、季節は確実に移ろい始めている]そうだ。これも『筆洗』からだが、一時朝晩すずしく、そんな気にもなったが、このところの暑さは「異常」「酷暑」というに等しい。
しかし『筆洗』の落ちはちがった。
この夏も企業や家庭の節電努力で、経済界が「脅し」にあおった電力不足は生じてないこと。奴らが原発を動かしたい真の狙いが「利益優先」「経済原則」であることを断言、[頭をひゃっこくし、カラクリを見抜きたい。]と結んだ。
このところの「映画脳」は、「物売りの声」を読んで、「物売りの声で有名な映画はなんだったか」、なにかで読んだか聞いたかしたことを思いだしたのだ。だが、映画の題名までは思い出せずグーグル検索してみた。
すると『人情紙風船』がでてきた。
戦争のため、28歳の若さで死なねばならなかった映画監督山中貞雄の作品で、本作をして「日本映画の最高傑作」と評する人もいるくらいだ。
題名に惹かれつつ、難解そうな雰囲気に退けて、ついに最近まで見る機会を逸しつづけてきた映画だ。
●参考リンク●●
[みんなのシネマレビュー]中『人情紙風船』
俺には「そこまで凄い」とは感じられなかった(見方が浅いせいだろう)が、戦争を考える8月(え!?)、山中貞雄作品をたのしむのも戦争に因んだ祭り、今夜は『人情紙風船』をサカナにするか。
従軍日記の最後の前段には[「人情紙風船」が山中貞雄の遺作ではチトサビシイ]と書いて鷹揚な人柄をしのばせ、最後はこう結んでいる。
——先輩友人諸氏に一言
よい映画をこさえて下さい
日本映画は山中貞雄の痛切の遺思にこたえているだろうか。
最近のでは一つも頭に浮かんでこない。