タイトルのセリフは、黒澤明監督『天国と地獄』(1963年)からです。
ある会社の重役の息子が誘拐されます、と思ったら、重役の息子にまちがわれてお抱え運転手の息子。重役は「間違いだから金は払わない」といい、犯人は「間違えたってなんだって金を払え、払わねば殺す」と脅します。
うまい手だ。あたりまえなら、つっぱねられるようでいて、そううまくいかない。
重役は株主総会をひかえ、というかその前夜、会社の実権を握るため、5000万という金を、家を抵当に入れたうえで買収工作に充てる矢先でした。しかし、それで実権を得たとしても、間違われた子を見殺しにしたら世論が許さない。そんななかでの苦渋の選択。
画像は3000万円の身代金(とうぜん今じゃないぞ、1963年、昭和38年、ちなみに東京オリンピック前年の貨幣価値)かかえて受け渡しの現場に向かう、主人公権堂、演ずるは三船敏郎。
犯人の要求通り、厚さ4センチまでとして現金を入れるカバンを指定しますが、まさかそれが新幹線のトイレの窓から下で待ち受ける共犯者に向けて落とすためとは。新幹線の窓は4センチだけ開くのでした(当時!)。
その場面のアクションは凄いです! 『天国と地獄』は、この場面を見るためにあるといって過言ではありません。とにかく新幹線を1日買い切って、一発撮りでつくったシーンの緊迫感、臨場感、ド迫力。
しかも、これが本作の分岐点になってます。
権堂の今の立場と、突然のアクシデント、権堂個人を奈落に落とす誘拐犯とのやりとり、この部分の1時間と、後半1時間余の捜査陣による犯人逮捕までの息詰まる刑事ドラマ、この2つの間に位置する身代金投下の場面。
仲代達矢演ずる戸倉警部が念押しします。
「いいですか、権堂さん。決して間違えないでくださいよ」
それに対して、吐き棄てるように、
「間違えるものか。“俺の命と引き替えにするんだ”から」
そういってトイレの窓から、全神経を張りつめて共犯者に連れられ、列車通過地点に立つ運転手の子の顔をしかとみきわめ、「進一、進一ぃーっ!」と叫んで3000万円はいったカバンを投下するのでした。
今回の地震……今回もなにも、こんなもの何度もこられては困るが(笑)、この震災で浦安の液状化問題がクローズアップされたよね。せっかく買ったマイホームが、今回の震災の液状化でとんでもないことに。
「アホか」と思った。「全然同情する気にならなかった」といったら、いろんな人から顰蹙を買った。それほどまでに日本人の危機管理、自己防衛意識は脆弱なのだ。
ふつう、マンションを買うにしても、耐震性とか考えるだろう。考えるだけでなく、設計士や建築士を雇って調べるだろう。家だっておなじだ。一時のものではない、一生ものだ。といって、まともなら買わないがね。いつ直下の地震で東京が滅茶苦茶になるか分からない、そう思ったら何十年もローンで縛られる買いなど絶対しないのが利口だ。それを液状化の土地に家を建てるなど……
たしかNHKの『クローズアップにっぽん』だと思った。そのなかで、被害を受けた若者が提示していた被害額、つまり土地付き一戸建ての買い値が3000万だった。それで『天国と地獄』を思い出したのだ。
この程度の認識だから政府にも舐められ、命の安売りされちゃうんだよ。
ま、若いんだから、何度でもやりなおせ。