近ごろ流行りの大活字本が苦手だ。
いや、俺もひと頃老化で目の衰えがめっきりひどく感じ、トイレにはいったとたん、飛蚊症どころか眼前一帯ベトが張ったように見えたときは愕然としたが、それも一瞬だけ。よほど体調が悪かったかしたのだろう。いまではそんなこともなく、平常だ。ただ、文庫本などの小さい文字は確かに見えにくくなったが、といって文庫本が教科書みたいな字では調子がくるう。
最近、京極高次の生涯を描いた750ページもの『湖笛』(角川文庫)を読破、大活字になった松本清張著『落差』上下に調子狂っていたが、また小活字の水上勉著『砂の紋章』上下巻(集英社文庫、アマゾン中古で送料別54円と1円)にもどって、それもこのほど完読。
まあ大活字、小活字といっても、並べてみてびっくりするほどの違いがあるわけでもないんだけどね(笑)。
新潟県親不知の海岸で石灰会社の社員が射殺という異常死体で見つかり、その友人が被害者の婚約者をともない真相を追う話だ。とていって婚約者の女性は終始蚊帳の外、探偵役はひたすら男なのがちょっと俺としては拍子抜けだが、さすがの文体に惹かれてついついまた水上勉を注文したわけだ(笑)。
ちょっとだけ紹介すれば『砂の紋章』は、はじめの衝撃的な事件現場が現場だけに、小説でも北朝鮮拉致疑惑が浮上したりもする。が、現実は汚職がらみ。拉致疑惑も時節がら「噂」程度に過ぎず、本書をネットで検索すると、鬼の首獲ったみたいに「あの水上勉も拉致疑惑を題材にした!」と、さかんに騒ぐバカ、つまりネトウヨに呆れた。文豪せっかくの推理長篇も、平成の世にあってはネトウヨのプロパガンダにすり替わるらしい。
推理小説もおちおち読めない(笑)。