2つまえの記事で、「経年劣化するまえに」と称してジャン=ルイ・トランティニャン、ロミー・シュナイダー共演の『離愁』を見たと書いたが、その『離愁』に勝るとも劣らず訳の分からない題名の『追想』(1975年、ロベール・アンリコ監督)を、きのう見た。
「戦争が人間を狂気に変える」とはよくいわれることだが、俺は断じてそうは思わない。戦争になろうがなるまいが、まともな人間はまともだ。それを正確にいえば、戦争という情況下がまともな人間に変節を強い、まともでない人間には本能のおもむくまま、悪魔の所業をも行わせかねないのだ。
『追想』のDVDがきのう届いた。
届いてすぐ見るDVDなどめずらしい部類にはいる。その結果、上記の思いを新たに、より強く心に刻みつけたわけだ。
原題は「古銃」とでもいおうか。妻子にめぐまれ、平和な家族の団らんの日々に、狩りなど忘れてとっくの昔、クローゼットの奥にしまい込み、弾倉は目張りで開けなくしてあるような逸物だ。それを切る日が来た。銃を取る日がきたのだ。
何時間かまえ、ジュリアン(フィリップ・ノワレ)は娘と妻クララ(ロミー・シュナイダー)の死骸を見た。娘は背中を撃たれ、妻は……
妻の死体は形をとどめていなかった。見た感じは石壁に身を守るようにうずくまってへばり付き、そうやってこちらからは背中を向けた状態の黒い物体と化していた。物体は黒焦げで、しかも火炎放射器で焼かれたのだ。
火炎放射器で焼かれる——
その情況が想像できるだろうか。自分が焼かれるのだ。
ナチスの狂気。蛮行。殺戮は虐殺以外のなにものでもない。
彼らはほんの気まぐれでこの村に立ち寄り、酒とご馳走に舌づつみを打って、ほんの慰めにたまたまその家にいた敵性分子の女をレイプし、面白半分焼き殺したのだ。得意絶頂のバカ話に、ジュリアンの脳内変換は妻クララの焦熱地獄を再現してしまう。
この男のこれ以後の行動に、どんな異論がはさめるだろう。
ナチスが逗留した古城は、ジュリアンも子供の頃から遊び回り、内部も地の利も知り尽くした古巣でもある。殺戮に縁の無かった素人が、殺戮のプロのナチス兵士を、これから何人も血祭りに上げるのだ。一人、また一人、ハーケンクロイツの軍団が、復讐の弾丸により屠られていく。これ以上の血湧き肉躍る痛快事があろうか!
それにしても、こんなブサイクなおっさんがあんな美人の奥さんを……! まあ、そのいきさつも映画を見れば分かる。これもずいぶんまえに一度見てる映画で、衝撃的な場面だけが心に焼き付いてるから、男と女のロマンスなんか記憶にないが、つまりはそれを凌駕して余りある衝撃映画というわけだ。
パッケージの惹句を読むぞ。
——愛する者たちよ、私の心に生きろ! 怒りの炎の中に哀しみを焼きつくせ! 溢れる涙に照準をくもらすな!
カッコいいなあーっ!! もう一度見たくなったぜ(笑)!
アマゾンに850円(送料別)の中古があるみたいです。絶体のオススメ!!